ハチミツ二郎さんが実現する「芸人とIT企業サラリーマンの二刀流」 〜タレントキャリアアドバイザー 別府 彩が聞く!〜
“タレントキャリアアドバイザー”別府彩が聞く!タレントのキャリア特集。
今回は、お笑いコンビ「東京ダイナマイト」として活動されているハチミツ二郎さんのインタビューをお届けします。
M-1グランプリ、THE MANZAIで合計3度の決勝進出も果たし、ルミネtheよしもとの舞台にも毎日出演している人気芸人のハチミツ二郎さん。2020年に突然、IT企業である株式会社ソノリテ(以下、ソノリテ)のサラリーマンになりました。
なぜサラリーマンとお笑い芸人という二足のわらじを履くことになったのか、現在はサラリーマンとしてどのように活躍されているのかを伺ってみました!
ハチミツ二郎
吉本興業所属、お笑いコンビ「東京ダイナマイト」のツッコミ担当。芸人として活動する傍ら、2020年4月に株式会社ソノリテに正社員として入社。現在はゲーム開発にも携わっている。
株式会社ソノリテ
「働き方改革」を推進するためにITを駆使したプロデュース、ディレクション、コンテンツの提供を行う。完全在宅勤務、本名非公開での勤務、フラットな組織づくりなど自社の働き方の改革にも積極的に取り組んでいる。
この記事の監修者
元フリーアナウンサー/タレント。
大学卒業後、およそ10年間フリーアナウンサーとして活動。31歳のときにグラビア写真集「彩色」(竹書房)を出版。
「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ)に出演するなど、バラエティ番組やラジオパーソナリティ、テレビCMナレーターなどの経験を持つ。
33歳で芸能界を引退、広告代理店に正社員として就職。イベント運営会社、イベントコンパニオン事務所を経て2020年に株式会社エイスリーに入社。
現在は、アナウンサーから会社員という自身の転職経験を活かし、日本初の“タレントキャリアアドバイザー”として、芸能人やクリエイターのパラレルキャリア・セカンドキャリアのサポートを行っている。
Twitter
https://twitter.com/a3_ayabeppu
目次
芸人がサラリーマンに!?コロナ禍でも安定の収入と福利厚生の魅力
―― 「 ハチミツ二郎がサラリーマンになった!」と話題にもなりました。なぜ会社員になったのか、経緯を教えて下さい。
2019年に仲間と「エロ本制作プロジェクト」を立ち上げ、クラウドファンディングで製作費を募ったとき、出資してくれたのが現職であるソノリテの代表である齋藤さんでした。
ソノリテのオフィスと私の自宅が近かったこともあり、連絡を取り合い、話をしていくうちに「ゲームやアプリを作る仕事に参加してみないか」とお誘いを受けました。
ゲームを作ると言っても、技術的なことはわからないけれど、会議に出席してアイデアを出したりするのは面白そうだと思いました。齋藤社長は「芸人の仕事もあるだろうし、毎日出社しなくていいから思い切って正社員として入社しないか?」と言ってくれたんです。サラリーマンは経験したことがなかったので、それも面白そうだと思って、やらせていただくことにしたんです。
―― サラリーマンになることを誰かに相談しましたか。
松本人志さんに相談しました。「今までまったくやったことのないことをやってみようと思っている」と話したら理解してくれました。そして『ワイドナショー』(フジテレビ系列)に呼んでくれました。
家族にも話しましたが、家族は喜んでましたね。芸人は仕事があればサラリーマンよりも稼げるけど、不安定ですからね。会社員は固定収入が定期的に得られるうえに、福利厚生が充実してることに驚きました。厚生年金や社会保険に家族も加入できることが芸人との大きな違いかもしれません。
リモートワークが二刀流の追い風に。お笑いステージの待ち時間にPCを広げて働く
―― ソノリテに入社してみて、サラリーマン生活はいかがでしたか。
2020年4月1日に入社しました。
時を同じくしてコロナウイルスの感染拡大の影響で、芸能の仕事はキャンセルが相次ぎました。われわれの活動は劇場のライブや地方でネタをやるようないわゆる営業が多かったのに、ソノリテの方にフル出社できる状況になりました。
同じようなタイミングでソノリテもすぐにフルリモートに切り替わりました。
毎朝決まった時間に起きて電車に乗って通勤して、という生活をイメージしていたのですが、それもたった3日間で終わってしまいました。
―― ソノリテでは具体的にどんな仕事をされているのでしょうか。
最初の半年間は研修でした。4月入社ですが、本採用は10月。その間いろいろなテストがありました。本採用後の半年間はさらに具体的な研修がありました。
2年目からは、ソノリテの肝となるサポートセンターの保守報告書を作っていました。
そして、2022年7月からはゲームの部署に配属となり、今はゲーム制作をしています。
与えられたミッションは、ゼロからゲームを作ること。今はゲームのキャラクターを作っている段階で、さまざまな案を出しています。
―― ゲーム制作をする上で、ご自身の強みはどんなところだと思いますか。
私はエンジニアではないので、ゲームを作ると言ってもその外側です。
例えばキャラクターを考えたりシナリオを作ったり。それは芸人をやっていたからこそアイデアが出せると期待されて、任されていることだと思います。
芸人はいろいろなアイデアを出して、そのなかから「笑い」になるものだけを残していく作業をしますが、今やっている仕事は「笑い」以外のサブキャラやタイトル、ストーリーを残すことができます。何かの作業で苦しむということはないですね。「できない」「考えられない」ということはありませんね。
―― 芸人とサラリーマン、2つの仕事をどのように両立されているのでしょうか。
芸人には空き時間があるんです。今日も劇場で3ステージ出番があって、待ち時間を入れると数時間にもなりますが、実際にステージに出演する時間はトータル30分です。
その待ち時間は他のことに使えますよね。相方は仮眠をしたり、ゴルフ番組を見たりして過ごしています。元々私はネタを書いたりする時間にしていましたが、それでも時間は余ります。
今は、空き時間を使ってPCを開き、フルリモートのメリットを最大限に利用してサラリーマンとしての仕事をしています。
自分の中では芸人が絶対的にメインの仕事であることに変わりはありませんが。
芸人ならではの発想力と創造力を活かし、これまでにない商品を生み出す!
―― ハチミツさんの周囲には、芸人としての収入だけでは生活が厳しいという方もいらっしゃると思います。そういう方にご自身の経験をお話しされることはありますか。
実はソノリテとは別の会社で、芸人やタレントのセカンドキャリアやパラレルキャリアを支援する「タレントキャリア」という事業を立ち上げました。
しかし、予想以上に芸人は就職することに二の足を踏むんです。芸能一本でやっていきたいという思いがどうしても強くて、芸人の仕事と両立させられることを伝えても、いつでも辞められるアルバイトの方がいいと考える人が多いですね。
私は新型コロナウイルスに感染して生死をさまよう経験もしました。半ばノリで始めたサラリーマンでしたが、芸人としての自分に保障は必要なくても、家族には保障が必要だと感じました。
妻子がある芸人には、家族のためにもぜひと勧めているのですが、それでもアルバイトの方がいいと言われます。
実際にパラレルキャリアにチャレンジしている人も役者やミュージシャンの方たちばかりで、今のところ芸人は1人もいません。
芸人の仕事もそれ以外の仕事も二刀流で楽しめばいいと思うんですけどね。
―― 皆さん、サラリーマンは未経験ゆえに、仕事に対しての不安があるのでしょうか。
サラリーマンとして働くことが嫌で芸人になっているという人もいますし。
時間で拘束されることを嫌う人もいますね。だからアルバイトである程度シフトの自由がきいたり、例えばUber Eatsのように完全に自分のタイミングで動ける仕事が人気です。
ソノリテの場合は「休んでも構わない。休んだ分は控除する」という話でした。極端な話、すべて仕事を休んだとしても、福利厚生は残るんです。芸能で30年仕事をしても、福利厚生はありませんから。採用側もそういう部分をもう少しアピールしないといけないかもしれませんね。
私が今やっているものが具体的に形になれば、芸人として出せるものとはまた違ったものの出し方になります。それがお金になれば、興味を持ってビジネスの世界に入ってくる芸人は増えるかもしれません。プロとして考えれば、金銭面を提示してあげるのもやはり魅力になります。
正直に言ってしまうと、芸能の世界では2日間でサラリーマンの月給を稼ぐことができます。コロナの影響で、出演機会が減り、その稼ぎがなくなってしまった。2日で稼げるものをなぜ1カ月もかけなければいけないのかという思いが芸人は強い。
ヒット商品を目指すことでこれだけの給料が稼げるという実例を出せたらと思っています。
ソノリテの事業はITだけではなく、出版などもあります。ホームページ制作やMicrosoftのサービスの管理などがベースですが、企画さえ通れば社内で子会社もつくれます。今の部署で1つゲームを生んだ後、社長にプレゼンしようと思っています。
―― 直近でいうと、どのようなものを企画されていますか。
詳細まではお伝えできないですが、子どもの創造力を引き出すようなゲームをつくれないかと考えています。
私には小学4年生の娘がいるんですが、娘やその友達に僕が考えていたキャラクターを見せたところ、「面白い」「私も考えてみたい」と言ったのです。制作側が考えるばかりではなく、途中まで作ったものを子どもに与えてどう組み合わせるかという、大喜利的な要素を含んだものにしたら面白いのではないかと。3歳の子どもでも遊べて、正解がなく自由に作れるものを考えています。
大喜利を国語の授業でできないか、ずっと本気で考えていたんです。
小学校から高校まで12年間の学校教育には必ず正解があります。でも大喜利って正解・不正解がないんです。「どんな言葉を組み合わせれば面白いのか」という正解のないことを子どもの頃から考えていたら、発想力がすごく伸びるのではないかと。
―― 今の仕事はハチミツさんならではの発想力が活かされていますが、一般企業で活かせる芸人のスキルは何だと思いますか。
すべてだと思います。営業に向いている人もいますし、企画に向いている人もいます。リーダーシップがある人はマネジメントができます。
IT業界を見ていると、圧倒的に欠けているのはリーダーシップを持った人だと感じます。それぞれ個でやっている感じがあって、リモート会議でもしゃべらない人が多い。具体的な技術論は持っていませんが、リモート会議を司会で回せる芸人や講演会の司会ができる芸人は大勢います。ですから、いろいろなところに当てはめられると思いますね。
「タレントキャリア」を『バイキングMORE』(フジテレビ系列)で特集してもらった時も企業から、芸人を採用したいという問い合わせは多数ありました。今はまだ供給が追い付いていないような状況です。
―― ハチミツさんがその道を切り開いていくことが、タレントキャリア事業にも活きてくると思います。市場をどんどん広げて、みんなハッピーになってほしいですね。今後のご活躍を期待しています!
頑張ります!