ユニバーサルミュージック・伊東 ちえ氏が語る プロモーターの働き方と求められる人材像

 

『エンタメ人☆彡』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。20代のエンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第6回は、再び音楽業界にフォーカスする。

数多くのアーティストのプロモーションを手がけてきた、ユニバーサルミュージックの 伊東 ちえ(いとう・ちえ)氏。エンタメ業界の動向と展望、そしていま求められる人材像を聞いた。(編集部)

伊東 ちえ(いとう・ちえ)
USM・クラシック&ジャズ・パートナーレーベルズXpromotions本部長

国内のレコード会社で宣伝プロモーターとしてのキャリアをスタートし、のちにユニバーサル ミュージック合同会社へ。ユニバーサルシグマ宣伝本部本部長、ユニバーサルシグマ宣伝本部 タイアップマネジメント部部長を兼任したのち現職。

社外コミュニケーションの成果を社内にフィードバック

── まずはレコード会社に入社されるまでのことを教えてください。

短大を卒業して、専門商社に平成元年に入社しました。当時はちょうどバブル時期で同期がおよそ100人。制服を着用して事務仕事を3年半ほど行っていました。

休日は楽しい日々でしたが、仕事を楽しめていないことへの不満がだんだん大きくなってきました。自分の人生のうち多くの時間を好きなことに費やしたいと思い始めたんです。

ただ、趣味を仕事にすることへの不安はありました。自分の好きなことがビジネスとなると好き嫌いだけでは通用しなくなるのではと。好きだった音楽を仕事にすることが本当に自分にとって幸せなのか悩みましたが、いわゆる「OL生活」に終止符を打ち、ご縁があったレコード会社の宣伝部に24歳で入社することになりました。

── 異なる業界に入られて、戸惑われたのでは?

宣伝部といってもデスクの仕事だったので、やることはさほど変わらなかったんです。新聞を切り抜いたり、音源を整理したり…。ただ会社にずっといるので、周りの人たちが話し合っている内容とか、仕事の内容とか、なんとなく掴めるようになってきて。やがて、私も同じ仕事をしてみたいなと思うようになりました。

商社から音楽業界に入ってまず戸惑ったのが服装。「えっ、スーツじゃない…?」みたいな(笑)。時間軸も商社とは違いますし、どちらかというと音楽業界の方がいろいろ緩やかな印象を受けました。あとで誤解だとわかりますが、「自由で楽しそうだなぁ」と感じたのを覚えています。

── プロモーターをされるようになった経緯について教えてください。

1年くらいはデスクの仕事をしていたんですが、新しいレーベルができることになって。かねてより希望を出していたので、新設のレーベルに行かせていただくことになったんです。

新しいレーベルだったので前任者がいないんです。プロモーションも「じゃあ行ってきて」みたいな感じで、飛び込みであちこち回っていました。当然、相手にされないことが多く、最初はとても苦労しましたね。

── 前任者がいないなか、どうやってプロモーターとしてステップアップされたのでしょうか?

まずは自分のことを理解してくれる方、味方になってくれる方を大事にしようと思いました。たとえば、あるラジオ局に行ったときには「この人!」と決めた方と積極的にお話させてもらったり、お食事にお誘いしたり…。当時、若かったので、まずは皆さんに色々聞きながら私自身を知ってもらえるように意識しましたね。

すると「このアーティストならここに売り込むのががいいかもね」とか、「こうやってブッキングするといいよ」とか、すごく親切に教えてくださって。

あとは、音楽会社って他の業界と違って横のつながりがとても強くて、他社のプロモーターさんと話す機会が多いんですよ。情報交換しあったり、サンプルを交換して感想を言いあったり…。ひとつは対メディア、もうひとつは横のつながりという具合に、どちらかというと会社の外に意識を向けるように心がけました。そのことで、結果的に社内にフィードバックできたと思っています。

── その後、ユニバーサル ミュージックに転職されましたね。

いろんな経験をさせていただきましたが、それまで所属していた会社のレーベルが解散することになってしまって。プロモーターとして音楽の素晴らしさを世の中に伝え続けていきたかったんですが、中でもマネジメントサイドの仕事にも興味をもつようになりました。よりアーティストに近い位置にいれば、いまよりも自分の気持ちや考えを伝えることができるのではと考えるようになり、いろいろご縁があって、まずはマネジメントの仕事に携わることになりました。

ところが、実際にマネジメントの仕事をやってみると、アーティストとの距離感が近すぎることがかえって自分を悩ます原因になってしまって。自分が本当に役に立てているのか、悩んでいたんです。

そんなとき、ユニバーサルから「新しいレーベルでプロモーターをやってみませんか?」とお話をいただいて、転職することになりました。

── 同じプロモーターとはいえ、異なる社風に戸惑うことはありませんでしたか?

そうですね。ユニバーサルは外資系で、もともとポリドールやポリグラムなど、いろんな会社の人が集まっていて、戦場のような印象を受けました(笑)。

正直言うとはじめの頃はあまり馴染めなかったんですが、取り扱う音楽の幅が広がるのを感じました。私が担当した「Island」というレーベルには、「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT」や「EGO-WRAPPIN’」「Kemuri」など、カッティングエッジでパンクスピリットをもったアーティストが多く、当時の自分のマインドに合っていたと思います。

 

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いまプロモーションに求められているのは、従来の手法とデジタルの連携

── 最近はインターネットを活用したプロモーションが主流となってきているのでしょうか?

2000年代の“着うたブーム”で携帯端末で音楽を聴くようになり始めたのが、デジタルに近づく第一歩だったと思います。ただ当時は、まだデジタルに対するアプローチといえるほどのものではなく、SNSの活用含めて一気にデジタル化が進んだのはここ5年くらいでしょうか。

サブスクリプションに代表されるデジタルを意識したプロモーションを推進してはいますが、いまも地上波が依然として影響力をもっている場合も多いです。効果を見極めながら、デジタルと従来の手法をうまく連携させる必要性を感じています。

── 新型コロナウイルスの流行は業界のトレンドにどう影響していますか?

たとえば、新型コロナウイルスの影響でライブやフェスができなくなったことで、配信ライブが立ち上がるなど、新しいビジネスモデルが構築されてきています。握手会なども、デジタルを活用した握手会やお話し会のようなものに置き換えるなど、従来の手法に代わる施策への取り組みが活発になっていますね。

プロモーションの方法にも変化がありました。かつては、CDのサンプラーを媒体に届けプロモーションを行うことが多かったのですが、最近はオンライン上でデータのやりとりができるようになり、対面でのコミュニケーションを必要としない方法も増えてきているように思います。

輝ける自分をイメージできる人材を

── これからの業界ではどのような人材が活躍できると思われますか?

TikTokやYouTubeなどから新しいアーティストが生まれてきていますので、人より早く情報をチェックして他に先んじてアプローチすることが必要になってきています。そういう新しいメディアに、スピード感をもって馴染めるかどうかは重要だと思います。

見せ方は人それぞれですが、自分を発信できるかどうかも大切になってくるのではないでしょうか。興味・意欲があって、行動できることが大事になると思いますが、まずは自分の強みを知って、それを外に向けてアピールすることが必要になるのかなと思います。

── 一緒に働きたい人材の条件やタイプなどがあればお聞かせください。

社内では「Be Ahead(先を行く)」とよく言われるのですが、時代に敏感で常に好奇心があって、アーティストに寄り添える方でしょうか。

はじめは右も左もわからず、つらいこともあるかもしれませんが、絶対楽しい仕事なので、強い気持ちをもって踏み出してほしいです。

── では、業界で活躍できる人材になるために「今日からできること」はありますか。

まずは、何事も飛び込んでみることがすごく大事だと思います。業界の人や関わりたい人たちにアプローチして話を聞かせてもらったり…直接話をすることで相手に対しての印象度変わりますよね。私たちも新しい人とのつながりを作ろうとするときは、まずはWebのお問い合わせフォームなどから連絡することも少なくないんですよ。

音楽業界に入るための準備や勉強している姿勢を見せることも大事だと思います。たとえば「ユニバーサルに入りたいけど、どんなアーティストがいるのか知らない」では困ってしまいますよね。

エンタメは衣食住に劣らず必要なもの

── 最後に、伊東さんにとっての「エンタメ」とは、なんでしょうか?

心の栄養とでもいったらいいでしょうか、衣食住に劣らず必要なものだと思っています。

先日当社の藤井 風っていう新人アーティストの武道館公演を観にいった時の話なんですが、始まった瞬間に涙が出てきたんです。悲しみや怒り、悔しさで涙が出ることはあっても、感動して涙することってすごく少ないと思うんです。

音楽って、たった3分半や4分という短い時間で感動させてくれたり、震えるような感覚を与えてくれたりしますよね。自分には才能がないので裏方の仕事をしていますが、アーティストが発するものを誇りと真心をもってお届けすることで、いろんな人たちの人生や生活が彩られることを願っています。

〔取材は2020年10月22日、ユニバーサル ミュージック合同会社にて〕

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