タカラベルモント 、ホッケー女子日本代表・及川栞のチームビルディングに着目【前編】

 

新企画、「タレントのキャリア特集」。
本特集では、タレントが業界外でどのように活躍しているのか、企業はタレントをどう活かしているのかをインタビューを通じて探る。

第1回インタビューは、ホッケー女子日本代表の及川選手と、タカラベルモント株式会社。
及川選手は、アスリートの活動と並行しながらタカラベルモントに正社員として勤務し、パラレルキャリアを築いている。
対してタカラベルモント社は、「美しい人生を、かなえよう。」をパーパスに、理美容や医療の業務設備機器および化粧品などを製造・販売する企業である。

前編として、及川選手とともに働く、広報の石川さんに話を伺う。(編集部)

 

タカラベルモント株式会社/広報室 石川 由紀子(いしかわ ゆきこ)
広告代理店、PR会社を経て、2020年4月にタカラベルモントへ入社。広報室に所属。

ホッケー女子日本代表/タカラベルモント所属 及川 栞(おいかわ しほり)
「東京から世界を目指す」をビジョンに掲げる東京ヴェルディ女子ホッケーチームで、ホッケー女子日本代表。2022年1月に、タカラベルモント株式会社へ入社。

アスリートを活かすのは現場、広告塔で終わらせない

―― 及川さんが貴社へ入社された背景をお伺いさせてください。

ご縁あって当社に声をかけていただいたことをきっかけに、入社いただきました。
当社としては、もちろん広告宣伝活動の役割は求めますが、及川さん自身の社会人としてのスキルにも期待をして採用に至りました。

及川さんの採用に関してはトップの意向が強くありました。
ただ、トップが採用を決定しても、活かすのは現場です。企業側が、採用したアスリートをどう活かすのかをきちんと考える必要があります。及川さんが広告塔だけで終わらず、限られた時間の中で、彼女のスキルを伸ばしてビジネスに寄与するにはどうしたらいいかを考えました。

―― なぜそのように考えたのでしょうか。

アスリートは選手生命を終えた時に、自立して働く必要があるからです。

前職で広告代理店に勤務していて、広告キャラクターとしてアスリートが起用されるのを数多く見てきました。私自身は、直接アスリートと仕事をしたわけではありませんが、アスリートのセカンドキャリアを見据え、彼らの社会人としての自立の重要性や必要性は感じていました。
それゆえ、彼女ともさまざまなことを話し、これまでの彼女のインタビューもすべて読み、公益社団法人日本ホッケー協会の方にもお話を伺いました。

金銭面でいうと、例えば野球、サッカーなどは大きなスポンサーが付くので、トップアスリートになれば、あまりお金の心配をする必要はないでしょう。しかし実際はそうではないスポーツが大半です。残念ながら、ホッケーは日本での競技人口も少なく、スポンサーが集まりにくい競技であることは事実です。
さらに、4強といわれるチームに所属している選手は、企業スポーツとして雇用されているため、給料が出ますが、及川さんが所属している東京ヴェルディホッケーチーム*では、給料は支給されません。東京ヴェルディホッケーチームは、スポーツ選手としてだけではなく、社会人としての自立を掲げています。彼女たちはスポーツをやめた後、働いていかなければいけませんから。

*及川選手が所属する、ホッケークラブチーム。実業団チームとは違い一企業に属さず、メンバーでの自主運営を軸に、企業のスポンサード、サポーター(個人)クラウドファンディングの支援等で運営する。

及川さんをはじめとした選手は、働くことや企業に所属することがどういうことなのかを学ぶために、選手の段階から企業に所属しています。 だからこそ、及川さんが所属する人事教育部と連携しながら、私なりに及川さんにはどう戦力になってもらうかを考えて、活動していただいています。

希薄化したコミュニケーション、及川さんのチームビルディングを活かす

―― 戦力になってもらうことに関して、どのような考えに至りましたか。

組織のコミュニケーション課題に、及川さんのチームビルディングが活かせると考えました。

彼女から強く感じたことは、チームビルディングのスキルが圧倒的に高いことでした。 ゴールに向かうチーム員に対して、どのように声をかけ、支え、チームをまとめていくのか。
それができるかできないかは、ビジネス経験のあり・なしではありません。及川さんは、チームビルディングの本質を、ホッケーを通じて理解しています。

一方、当社では、コロナになってからテレワークが主流になり、社内のコミュニケーションが希薄になっているという課題がありました。コンサルティング会社に依頼して改善していく方法もありますが、より身近な人から生の声が伝わることで、チーム力を高められないかと考えました。

――  具体的に及川さんへどのようなことを任せましたか。

社内外で、夢を諦めないことの大切さをテーマに講演してもらいました。

まずは、新人研修です。及川さんには資料から全て作成いただきました。

また当社は美容学校もあり、学生に対しても同じテーマの講演会をおこないました。
最近は、美容師になってもわずか数年で多くが辞めてしまうのが現状です。そこで、講演を通じて夢を諦めないことの大切さを伝え、学生のモチベーション向上を図れないかと考えました。

学生からは、まずオリンピック選手が来たことに喜んでいただけました。そして「及川さんの話が大変刺さりました」といった感想をいただきました。
この反響を社内にフィードバックしたところ、営業担当から、担当エリアの美容学校でも開催してほしいと要望をいただいています。

また、当社のお客様はサロン経営者が多いため、経営者の方向けにチームビルディングに関する講演も検討しています。 彼女の講演を通じて、営業担当とお客様の関係値が深まるのではないかと思っています。

タカラ美容専門学校での講演の様子

社員の自覚を抱いてもらうため、特別な目線をもたずに対話する

――  石川さんからみて、及川さんの活躍ぶりをどう感じていますか。

アイデアを出してくれるところも評価しています。

及川さんの出社日数は限られています。しかし、限られた時間の中であってもビジネスに直結する相談ができるパートナーだと思っています。

大阪本社入口には、及川さんのナショナルチームのトレーニングウェアと等身大のパネル、そして彼女が使用していたスティックを展示しています。及川さんにも、企画段階から参加してもらい、「ホッケーはもともと芝の上でおこなうスポーツだから、芝の上に並べたらどうか?」とアイデアをくれました。 芝を用意するところまで考えられるのは彼女だからこそ。積極的に参画してくれています。

――  及川さんならではの視点でアイデアから実行まで、取り組まれていらっしゃるのですね。

そうです。及川さん自身が周囲から頼られていると感じ、彼女なりに会社のために考えてくれていることの表れだと思います。 例えば「数時間だけ出社して伝票整理だけしてくれればいい」ということでは、社員としてのモチベーションは上がらないと思います。

対話をして企業が求めていることと、及川さんが貢献したいことをすり合わせる、そして特別な目線をもたずに頼って、自分ごと化してもらうことが重要と考えています。

私は及川さんをトップアスリートだからといって、ちやほやすることはありません。
研修を受け、商品について勉強し、理解するようにしてほしいと話しています。彼女は他の社員と変わらない“同僚”です。アスリートは特別な存在だから、試合がない時に会社に来て何となく仕事をしていればいいといった意識では、うまくいかないのではないでしょうか。

正直、私も及川さんに会うまでは、オリンピアンは自分とはまるで違う人生を歩んできた特別な人だと思っていました。確かに一般人ができないことを経験してきていますが、彼女には彼女の挫折もあれば苦労もある。それでも軸をぶらさない、本質は何かということを常に考えているその姿勢は、ビジネスにも通じます。
トップアスリートが特別ではないことを及川さんから学びました。

――  アスリートといっても特別なことはないといった目線合わせは大切ですね。

むしろそれが重要だと思います。 2024年のパリオリンピックが近づけば、出社の機会はさらに減ります。しかし、オリンピックを目指すことができるのはタカラベルモントというベースがあるからということを理解してくれていて、「社員としてその時にできることをやろう」という意識をしっかり持ってくれています。

――  今後の及川さんに期待することを教えてください。

大きく二つあります。 まずは、トップアスリートとして期待すること。それは、2024年パリオリンピック出場を目指して頑張ってほしいですね。それが及川さんに一番期待することです。
もう一つ、タカラベルモントの社員として期待することとして、常に心のどこかで、「今、タカラベルモントにできることはないか?」と考えてもらいたいと思います。 パリオリンピック出場に向けて、アジア大会など大きな大会も続き、出社できない日は多くなると思いますが、社員として心掛けてほしいと思います。

今、多くの社会人がリモートで働いていて、出社を前提としなくても仕事ができる状況です。 だから、及川さんにも、その時、いる場所でタカラベルモントに対して何ができるかということを考えていただき、場合によっては実行してもらう。タカラベルモントの社員としてやりたいことがあっても、どうすればいいか悩む時には、報連相していただければ全力でサポートしていきます。