株式会社Clan Entertainment 代表取締役社長 大井 基行氏が語るVTuber市場の拡大性と業界で求められる人材

 

エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。
エンタメ業界へ転職を考えている方たちへ向けて、業界の今後の展開や成長性について探っていく。第38回は、日本テレビから分社化し、VTuber事業を行う企業を取り上げる。(編集部)

 

株式会社Clan Entertainment
代表取締役社長 大井基行

慶應義塾大学卒。28歳。2017年に日本テレビ放送網株式会社に入社。2018年に社内ベンチャーとしてVTuber事業「V-Clan」を立ち上げ、責任者として事業運営を行う他、「プロジェクトV」など多数の番組やイベントのプロデューサーも務める。2022年4月に日本テレビHDの新会社としてClaN Entertainment社を設立し、代表取締役社長に就任。
座右の銘はSMAPの中居正広さんの言葉から、「成功は保証されていないが、成長は保証されている。」

VTuberの「拡張性」と「将来性」について

 ―― まず、貴社について教えてください。

弊社は日本テレビからスピンオフし設立した、VTuber事業をメインとしたエンターテインメント企業です。

VTuberは、これから長く続くであろうバーチャル文化のスタートラインにあると考えています。VTuberを起点として現実世界との融合が今後さらに加速していく。そのような世界の中でバーチャルとリアルを繋ぐ、新しいエンターテインメントを創り出す企業がClaN Entertainmentです。

―― VTuber事業の面白さはどのような部分にあると思われますか。

そうですね…。1番はやはり「拡張性」と「将来性」ではないでしょうか。

世間で認知されているVTuberは美少女ビジュアルが中心ですが、僕は美少女に限定されるものではないと思っています。

赤ちゃんやおじいちゃん・おばあちゃん、動物でも構わないわけですし、実際にそういったVTuberも存在します。今後様々な外見のキャラクターやビジネスが広がっていくのではないでしょうか。

例えば、V-Clan※1に参加しているクマーバというVTuberがいます。クマをモチーフにした幼児向けのキャラクターですが、クマーバチャンネルの累計再生回数は5億回を超え、2020年にはVTuberカテゴリーで年間再生回数1位を獲得しています。

歌動画や知育動画がお子さんに再生されているわけですが、この事例のように様々な容姿のキャラクターが増え、それに伴いビジネスも変化していく。この拡張性というのは魅力的に感じます。

また、YouTubeというインターネット上のプラットフォームにオリジナルのキャラクターが存在するだけでなく、そのキャラクターがリアルタイムに動きファンと会話ができる。これはとても革新的なことだと考えていますし、この点からも将来性を感じることができます。

加えて1つ挙げるとすれば、スピードの速さですかね。変化が激しい世界なので、今日正解だったことが3カ月後には正解ではなくなる。日々状況が変化して、技術やコンテンツも進化していく。このスピードの速さはVTuber事業に携わる上で面白いと感じております。

※1 VTuberの制作・配信周りなど様々なサポートを行うネットワークの名称。インタビュイーの大井氏が代表を務めている。

―― VTuber事業を手掛ける会社は増加傾向にありますが、貴社の差別化戦略やブランディングについて教えてください。

他社との違いを挙げるとすれば、あらゆるVTuber事務所にとってプラスになり得る存在だということです。

何故なら、弊社のV-Clanネットワークはあらゆる事務所や企業が横断的に参加する、非常にオープンな形を取っているからです。

各社のVTuberを活用したコンテンツ制作や彼らの活動のサポートを行いながら、VTuberの番組を制作し、彼らの魅力を広めるメディア的要素も担っています。

VTuber事務所でも配信プラットフォームでもない事業展開。それは日本テレビグループという強みや、VTuberが誕生した頃から事業を続けてきたことによる知見やノウハウがあるからこそ、実現出来ていることだと感じています。

海外でも戦うことが出来るエンターテインメントがVTuber

―― 次に、VTuber市場における課題は何だとお考えですか。

VTuberというジャンルに対する偏見や世間の許容度がまだ足りてない点でしょうか。VTuber事業を開始した当初と比べると「VTuberって面白いよね!」という声も日に日に大きくなっていますし、一般知名度も上がり、イメージも良くなっています。

ただ、やはり全世代に浸透しているわけではありません。今の姿形に限定されない多種多様なVTuberが生まれてくると、より様々な層にVTuberが受け入れられ、市場全体がもっと広がっていくと思います。

―― 確かにかなり一般化した印象があります。市場からの期待値も高いですよね。

メタバースという言葉が一般的に広まり共通言語が出来たことによって、仮想空間におけるビジネスが世間一般にもイメージしやすいものになりました。メタバースに対する期待値、VTuberに対する期待値、その両方が並行して大きくなっていると思います。

―― 今後、どのようにVTuber市場が拡張していくとお考えですか。

繰り返しになりますが、皆さんが今イメージしているVTuberだけがVTuberではないと思っています。様々なタイプのVTuberが誕生すれば、様々なターゲットにリーチ出来るようになっていきます。

そして、国内だけにとどまらず海外において日本のアニメやキャラクターのブランドが確立されている中、VTuberは日本発のエンターテインメントとして海外でも伸びる可能性があると考えています。

国外の可能性を考慮した上で考えると市場規模としては10倍、いや100倍になる成長余地は秘めていると考えています。

世の中に浸透していないジャンルで挑戦する難しさ

―― ここからはパーソナルな部分について伺えればと思います。エンタメ業界に興味を持たれた理由やきっかけについてお聞かせください。

実は国民的男性アイドルグループが大好きなんです。ファンクラブにも10年間入っていましたし、テレビにかじりついて見てきました。

彼等は1つのジャンルに特化することなく、お芝居も歌もお笑いも何でも出来ました。まさにエンターテインメントの強さを体現しているかのようなグループでして、私にとってエンターテインメントの楽しさを気づかせてくれた原体験になっているのは間違いありません。

また、私の通っていた高校では1年かけてミュージカル制作を行う取り組みがありました。文化祭で公演をするのですが、みんな部活よりも一生懸命なんですよ。文化祭のために部活を辞める人もいて、4割が帰宅部というクラスもあったほどです。

私は演者も裏方も経験しましたが、ミュージカル制作にはものづくりの楽しさがありました。ミュージカルへの興味の有無を問わずに、様々な趣味趣向を持つ人たちが1つの目標に向かってまとまる瞬間があるんですよね。

また、観客から拍手をもらえる体験を高校生の内にできたということは、自分の中ではすごく大きなことだったと思います。

エンタメの楽しさを国民的男性アイドルグループから知り、ものづくりの楽しさを高校時代のミュージカル制作から知りました。これらの原体験を元にエンタメ業界に興味を持ち、この業界に飛び込みました。

―― 今までお仕事をされてきた中で経験された修羅場や苦労されたことを教えてください。

VTuber事業をスタートした直後がやはり1番苦労しましたね。事業を開始した頃はVTuberが誕生した1年後でした。

なので、VTuberのコンテンツ制作においてノウハウ等は存在しません。誰からも教えてもらえない。誰も成功パターンを知らない。そんな中で事業として成長させていかなければなりませんでした。

また、当時は日本テレビ社内でもVTuberの認知度は低く、何か企画をする上でも中々理解を得られない場面もありました。まだ世に浸透していないジャンルで事業を行うことがここまで難しいのかと何度も感じましたね。

新規事業というのは、傍からみるとキラキラして楽しそうに見えるかもしませんが、ゼロから作り上げていくのは相当な体力と覚悟が必要だと感じています。その反面、自分達でルールを作れますし、自由に設計出来る面白さもあるので表裏一体というところではありますね。

求められる人材のキーワードは「インプット」と「熱意」

―― 今後エンタメ市場において、どのようなマインドやスキルを持っている方が求められると思いますか。

インプットを自発的に、積極的に行うことが出来る人でしょうか。
どのような職種であっても、インプットがなければアウトプットはできません。エンタメをどれだけ好きで、楽しんで、自分自身の中に吸収できているかが重要です。

例えば、映画が好きで毎日映画を見て全てのレビューを書いているような人は、違うジャンルでもすぐに情報を吸収できる素質があると思います。エンターテインメントへの愛情を持ち、新しい情報・新しいコンテンツを常に取り入れ続けられるかは一つのポイントだと思っています。

これまで私が出会ってきた仕事ができるなと思う人ほど、どんなに忙しくても様々なコンテンツを見ていますし、体験しています。そして、見るだけ・体験するだけで終わらず、自分の中に吸収できている人はエンタメ業界では特に求められる人物像だと思います。

―― では、大井さまが一緒に働きたいと思う人物像も教えていただけますか。

1つ挙げるとするならば熱量がある人です。知識や経験も大事ですが、何よりも熱量を持っていることが一番の武器だと思っています。

エンタメに正解はありません。短時間で計算して正解を導き出せる能力よりも、熱量をもってとにかく考え、正解か不正解か分からない中で答えを出し続けることが求められます。

だからこそ熱量が必要だと思っています。

熱量が力となって新しいものをつくり、今あるものを変えていく。それが結果につながっていくのだと思います。

―― 貴社にとっての人材とは、どのようなものだとお考えですか。

人材は会社にとって最も大事な要素だと思います。自分で会社を立ち上げて、「会社は人」という言葉の意味が理解できたと感じます。

いかに優れた商品やサービスがあったとしても、それを活かす人がいなければ成立しませんし、会社の成長もありません。

「ClaN」は人の集合体という意味なのですが、弊社は人を軸にしたエンターテインメント企業ですので、企業名がまさに弊社のことを表しています。

人に重きを置く企業ですので、自社の社員も大切にしていきたいと考えていますし、ClaNの社員やスタッフだけでなく、関わる人の人生もより良く変えていきたい。そのためにClaNが存在している。そんな関係性を築いていけたらと思っています。

―― では、最後の質問です。大井さまにとって、エンタメとはどのようなものでしょうか

とてもシンプルですが、「一番楽しいこと」ですね。

エンタメを見ている時、エンタメをつくっている時、とにかくエンタメに関わっている時が人生で一番楽しいですね。

だからこそ、私はClaNに対しても他のどんなことよりも高い熱量を持って取り組めていますし、自分で事業や会社を始める際には、エンタメをテーマにするということだけは最初から決めていました。

エンタメに関わっている時が人生で一番楽しくて一番ワクワクしていると思いますし、他の仕事には就けないと思っています。