株式会社Gaudiy田中陸也BizDev・永井翔エンジニアが語る「エンタメのD2C」

 

『エンタメ人☆彡』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている20代の方たちへ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向までを探っていく。第26回は、ブロックチェーンやAIといった技術を使ってIT企業のDXを進める会社を取り上げる。(編集部)

田中 陸也(たなか・りくや)
大手電機メーカーで事業企画・立ち上げに従事した後、広告代理店にて大手スポーツ・日用品・ファッションブランド等の、ブランドマーケティングを支援。その後AIを活用したHRテック子会社の立ち上げを経て、2020年にGaudiyにジョイン。BizDevとしてブロックチェーンを活用したエンタメ業界のDXを推進中。

永井 翔(ながい・しょう)
約8年ほどCRMパッケージのエンジニアとして従事した後、ブロックチェーンに興味を持ち独学を始める。2019年Gaudiyへジョイン。ソフトウェアエンジニアとして、コミュニティアプリやそれを支えるバックエンドシステムなどの開発中。

Gaudiyの事業内容について

── 株式会社Gaudiyの事業内容について教えてください。

(田中BizDev)「ファンと共に、時代を進める」というミッションのもと、エンタメコンテンツ業界のDX(Digital Transformation=デジタルトランスフォーメーション:進化したIT技術を浸透させ、人々の生活をより良いものへと変革させるという概念)を推進する事業を展開しています。ブロックチェーンやAIといった先端技術を使いながら、今までのエンタメ業界にはなかった新しいファン体験作りと、新しいビジネスモデルの創出に取り組んでいます。

── お二方の担当事業領域についても教えてください。

(永井エンジニア)僕はエンジニアとして株式会社Gaudiyに入社して、ファンコミュニティサービスや、Gaudiy-DID System(分散型IDシステム)などの開発全般に携わっています。

(田中BizDev)僕は大きく2つあります。1つは事業開発周りで、各クライアントの課題や実現したいことをヒアリングした上で、どのような形でDXを進めていくのかを具体化し、プロジェクトを推進しています。もう1つは、ファンコミュニティサービスの企画・プロデュースや、レバレッジの効く仕組みづくりなどを担当しています。

Gaudiyが考えるエンタメ業界の課題

── Gaudiyが考えるエンタメ業界の構造上の問題とはどのようなことでしょうか。

(田中BizDev)僕らのターゲットはエンタメコンテンツ業界ですが、IPコンテンツ(著作権・知的財産権が発生するコンテンツ)を有する企業(以下、コンテンツホルダー)が共通して抱えている課題は、ファンとの直接的な接点を持つことが難しいということです。

例えば音楽ではSpotify、動画であればYouTubeなどのプラットフォーマーに対して、コンテンツホルダーは多くの手数料を支払わなければならないため、良いコンテンツを生み出し続ける体力を削いでしまう構造になっています。また、顧客データをプラットフォーマーに握られていることも課題です。これは、エンタメ業界全体で起きていることです。

── コンテンツホルダーとプラットフォーマー間における利益配分の課題を解決するため、御社ではどのようなソリューションを提供されていますか。

(田中BizDev)まずは、ファンとの接点をコンテンツホルダーが直接持てるようにすることです。このためにPWA(モバイル向けWebサイトをアプリのように使える仕組み)という技術を使用したファンコミュニティサービスを制作しています。これによって、ネイティブアプリ(OSにアプリケーションストア経由でインストールして使うアプリ)のように使いやすいだけでなく、プラットフォーム手数料を回避することができます。

── エンタメ業界におけるD2Cということでしょうか。

(田中BizDev)そうです。さらに、ファンコミュニティサービスと同じIPの別サービスを連携するため、僕らはブロックチェーンを用いた分散型ID(DID)を作っています。これで何ができるかというと、クロスメディア(一つの商品・サービスに対して複数の広告媒体を利用し、宣伝・販促活動を行うこと)での連携がしやすくなるのです。

現在のエンタメ業界では、同じIPからゲーム、アニメ、ファンクラブとさまざまなコンテンツに展開されますが、ライセンス提供型のビジネスモデルのため、運営会社は全て異なります。そのため、1人のファンが各プラットフォームに別のユーザーとして認識され、それぞれで個別最適化された体験になっています。これはエンタメ業界の構造上の課題であり、機会損失だと思っています。そこに対して、DIDが有用になります。

── Gaudiy-DID System(分散型IDシステム)とはどのようなものでしょうか。

(永井エンジニア)Gaudiy-DID System自体は、ブロックチェーン技術を用いた分散型のID管理システムです。これまで何かのサービスを利用しようとする時には、サービスを提供する企業に登録するので企業内でユーザー管理が行われていました。しかし、分散型のIDは自分で個人情報を管理し、複数のプラットフォームにログインできるようになります。

企業側のメリットは、高セキュリティかつ低コストでのデータ連携ができることや、ユーザーの個人情報を管理しなくて済むことです。また、ユーザー側のメリットは個人情報を開示する先を自分で選択できるようになることです。

── Gaudiy-DID Systemの使用事例にはどのようなものがありますか。

(永井エンジニア)例えば、ゲームIPのファンコミュニティサービスでは、コミュニティ内で得たNFT(唯一無二の価値を生み出せる代替不可能なトークン)のトレカをゲーム内アイテムとして使用できるなどの、クロスメディアの体験にもDIDが利用されています。

通常、異なる会社同士でシステム連携をすることのハードルは高いのですが、DIDシステムでは、共通のブロックチェーン上で、全員が信頼できる状態でデータを参照することができます。そのため、今まで実現できなかったファンを軸にしたデータ連携がしやすくなるのです。

一方で、ファンにとっては、DIDという概念は理解することが難しく、新規IDを登録してもらうためには工夫が必要です。

そこで、現在Gaudiyが運営している、週刊少年ジャンプの漫画「約束のネバーランド」のファンコミュニティサービス「みんなのネバーランド」では、DIDという形ではなく、話の中に出てくる「マイナンバー」というモチーフに絡めて提供しています。

約束のネバーランドは、登場人物が施設から脱走するストーリーなのですが、首に刻まれたマイナンバー=識別IDで管理されているという作品内のモチーフを利用して、DIDに活用しています。

作品内でもブロックチェーンでも世界に1つの番号として渡され、他のいろいろなプラットフォームでも活用できるという仕組みです。

「約束のネバーランド」でファンに提供した新しい体験とは?

── 「約束のネバーランド」はどのような形でスタートしたのでしょうか。

(田中BizDev)「約束のネバーランド」は2020年6月に原作の連載が完結しました。連載終了後は、映画やアニメ、ゲームなどの新しいコンテンツに展開されていますが、ファンにクロスメディアの体験を届けて、より楽しんでいただくためにGaudiyが入らせていただきました。

「みんなのネバーランド」は、原作の集英社さん、映画制作の東宝さん、アニメ制作のアニプレックスさんとの共同プロジェクトになります。僕らが実現しようとしているのは、原作のファンだけではなく、映画やアニメのファンもつなぎ、メディア横断の新しい体験の提供を通じて楽しんでいただくことです。

例えば、実写化映画の上映に合わせて、ファンコミュニティサービス内で複数回の来場を促すようなキャンペーン施策を行いました。また、近日開催予定の体験ミュージアムでは、来場したファンがQRコードを読み取るとNFTのトレカがもらえる、といった新しい体験を提供しています。

── ブロックチェーンを活用することで、海外や日本でどのような変化が起こるとお考えでしょうか。

(田中BizDev)今海外で伸びているのは漫画ですが、海外の人が日本の漫画を楽しむには翻訳が必要です。しかし、ビッグタイトルかつメジャーな言語でないと翻訳されないため、多くの漫画は海賊版として出回ってしまいます。これは大きな機会損失となります。

そこで、漫画の自動翻訳をAIを用いてやっているMantraさんと、僕らがタッグを組むことでこの問題を解決しようとしています。スモールIPのマイナーな言語での自動翻訳も、その作品のファンを巻き込みながら一緒に取り組めるようにし、電子書籍を作成しようとしています。これを販売すれば、今まで海賊版で機会損失していた分をビジネスの成長に繋げることができるでしょう。

これはどちらかの会社だけでは成立しません。AIでできることは限られていて、人が補完しないと精度が良くならないことがMantraさんにとっての課題でした。僕らは0からファンに翻訳してもらうというのはハードルが高いと感じていたので、ある一定の精度までMantraさんに翻訳してもらい、海外のファンが最終校正を担うことで、その活動に対するファンへの報酬や原作者へ売上の一部が還元される仕組みを考えました。

今はプラットフォームの時代だと思われていますが、僕らはこれからはコンテンツホルダーの時代だと思っています。ブロックチェーンはコンテンツが力を持つようなイノベーションを起こせるので、オールジャパンで日本という地の利をうまく使えれば、海外に新しいビッグビジネスを作っていけるでしょう。

ブロックチェーンが紡いだGaudiyへの道

── お二方がGaudiyに入社した経緯をお聞かせください。

(永井エンジニア)僕はそもそもToB向けCRM製品を9年ほど開発していたエンジニアですが、2017年頃にブロックチェーン技術に分岐点がありました。Gaudiyと出会って一番惹かれたのが、何かを好きな人たちのコミュニティを良くするためのサービスを作るというところです。僕自身ユーザーとしていろいろなIPが好きなので、何かを好きな人たちをもっとエンパワーメントするようなサービスを作っているという所で惹かれて、入社しました。ミッション自体に惹かれたということです。

(田中BizDev)2017年頃からブロックチェーンの可能性に魅力を感じ、いろんなイベントや勉強会に行く中で、永井や弊社代表の石川とも出会いました。その時からGaudiyのビジョンに魅力を感じていたのですが、自ら起業するタイミングが重なり、Gaudiyを横目で応援し続けていました。

その後も代表の石川とは時々連絡を取り合っており、2020年に入社を決めました。最終的には、何度話を聞いても「社会を大きく変革する魅力を感じるけど完全には事業内容が理解しきれない」という不確実性に惹かれ、だったら当事者としてGaudiyに入社してみようと思いました。

── 永井エンジニアは、制作対象がCRMからブロックチェーンに変わりましたが、これまでのスキルは活かせましたか。

(永井エンジニア)ブロックチェーンに関する技術は新しいものでしたが、これまでのエンジニアとしてのスキルも役立つ面はありました。苦労した点は、ブロックチェーンという技術に関する情報が少なく書籍や資料があまりなかったため、海外の論文を読んだり、ハッカソンに参加してキャッチアップしました。

── 現在、エンジニアの方がブロックチェーンに興味を持った場合、どのようにして学習すれば良いのでしょうか。

(永井エンジニア)ブロックチェーン技術自体難しく、利用するユーザー体験としてもややこしい面がありますが、ユーザーに体験として届ける部分が特に難しいと思っています。そのため、技術部分の習得だけでなく、実際にどのような形でユーザーに提供されているサービスが存在するかどうかをキャッチアップしたり、実際に利用してみたりすることも重要に思います。

技術と人材がつなぐエンタメ業界の未来

── 今後エンタメ業界ではどのようなマインドやスキルを持った人が求められるでしょうか。

(田中BizDev)総合力のある人だと思っています。エンタメ業界は、新たな技術やビジネスモデルに挑戦しやすい業界だと感じています。そのため、エンジニアでなくても技術的な理解が必要ですし、それをユーザーに受け入れられる形で提供できるクリエイティブの視点も重要です。またそれらをビジネスに昇華できる力も大切だと思います。これらを全て一人でできる必要はないですが、専門性を持った人と会話できたり、横断的な思考ができたりする人は、求められると思います。

(永井エンジニア)僕も似ていて、どれだけ難しいテクノロジーであってもそれをユーザーにどのように届けるかが重要だと思うので、ファン視点で広くさまざまな情報を取り込んだ形で提供できるような人が求められると思います。

── お二方が共に働きたいと思うのはどのような人ですか。

(田中BizDev)ストレッチな課題があった時に、ワクワクできる人ですね。最初から無理だと考えて諦めてしまう人はやりにくいかもしれないです。「どうすれば解決できるか」という問いに変換して、ワクワクできる人と働きたいと思います。

(永井エンジニア)僕は作ったサービスをファンに届けるにあたって、より良い体験を作ることに妥協しない人と一緒に働きたいと思います。圧倒的に難しい技術をファンの方に気持ちよく使っていただくためには、落とし込む中で妥協したくなる面もでてくると思います。が、それでも、段階を踏んででも妥協せずに最高の体験を求めていける人と一緒に働きたいですね。

── お二方にとってエンタメとはどのような存在でしょうか。

(永井エンジニア)僕にとってエンタメはさまざまな感情をくれる存在です。僕自身1ユーザーとして、感動や勇気をもらっています。自分の好きな領域に対してエンジニアとして新しい技術を使って、業界の盛り上げに貢献できることはとても誇りであり、引き続きみんなが楽しめるものを作っていきたいと思っています。

(田中BizDev)僕はビジネス目線でエンタメ業界が面白いと思っていて、ある意味「社会の未来図」のように感じています。なぜならエンタメ業界は新しいテクノロジーを取り入れるのが早く、新しいことに挑戦する文化があります。エンタメ系の会社とやり取りしていると、他業界の大企業よりもチャレンジ精神に溢れた人が多い印象です。このような環境で次々と新しい挑戦が行われ、これから先メタバース(オンライン上の仮想空間)が進展する時代になると考えると、今のエンタメ業界の取り組みが、社会の未来を作っている感じがしています。エンタメ業界がどういう方向に向かっていくのかとか、そこを作っていくことに自分が携わっている感じとか、そういう視点でエンタメが面白いと思っています。