Radiotalk株式会社代表取締役・井上佳央里氏が語る音声市場の「未来」

 

『エンタメ人☆彡』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。第23回は、音声配信事業を行う会社を取り上げる。(編集部)

井上 佳央里(いのうえ・かおり)
Radiotalk株式会社 代表取締役
2012年エキサイトに新卒⼊社。「エキサイトブログ」をはじめとしたUGC、CGM、コミュニティサービスを手掛け、2017年に社内ベンチャー制度でRadiotalkを公開。2019年3⽉にRadiotalk株式会社代表取締役に就任。2019年5月に毎日放送グループのMBSイノベーションドライブと資本業務提携を開始。2020年10月、約3億円の資金調達を実行。

音声配信を通じて一般の方からスターを生んでいく事業

── まずは、Radiotalkの事業内容について教えていただけますでしょうか。

話せば食べていける職業「トーカー」を生み出すことを目指して、Radiotalkという音声配信サービスを提供しています。1タップで音声の編集や加工、リアルタイム対話というリスナーと一緒にしゃべる機能などがあります。ビジネスモデルは「ギフティング」の仕組みを使用して、リスナーからの応援が金額となって配信者に入り、私たちはその手数料をいただくというものです。

── ギフティング機能はいつから付けられたのでしょうか。

テスト的に付けていたのが2019年9月で、ポッドキャスト(収録した素材を編集して配信すること)に対して有料の応援メッセージが送れるといった機能でした。任意での課金で、特に2020年3月・4月の緊急事態宣言時の際に売上が自然と急成長したのです。

ユーザー数も当時月で150%成長と伸び、かつエンタメのあり方としてクリエイターへの課金が受け入れられていると感じたタイミングでもありました。この動きをより加速させるために、Radiotalkではさまざまなポイントでギフティングを使えるようにすることにしました。

また、2021年4月にはいわゆるClubhouseのような形で、リスナーを呼んで一緒に話すということがRadiotalkでできるようになりました。

── Radiotalkが他社と差別化している部分がありましたら教えてください。

ユーザー投稿型のサービスは、YouTuberのようにサービスからスター的な存在が生まれて市場全体を牽引していくという上り方をする場合と、Clubhouseのようにもともと影響力の大きい芸能人などニーズがある人たちの発信があってリスナーがついてくるという上り方をする場合の2種類があります。

私たちは前者のような上り方をしていて、一般の人がRadiotalkから「生まれていく」といった形です。

── 音声配信アプリをLIVE配信ではなく録音から始めたのはなぜでしょうか。

情報密度の高いコンテンツを先に集めるためです。前提として、音声配信サービスの歴史を辿ると、注目される「音声の特性」が時代ごとに3つに分けられると思っています。

1つめは、ながら聴きで情報収集できる情報性です。

2つめは、アレクサのように話せば動く機能性のあるものです。

3つめは、流せば沈黙が消え、気配を与える、居心地の良さ=情緒性でしょうか。

2006年ごろから始まっているポッドキャストは、英会話や語学・ニュースなど、1つめに挙げた情報性が高いコンテンツから人気になったように見ています。2つめの機能性は、音声認識の精度がかなり良くならなければ機能しません。そしてその後に、音声デバイスが当たり前になってくると、日常のBGM代わりとして居心地や気配、感情を届ける情緒性が見直されるだろうと予測しています。

そこで2017年に、まずは情報収集に特化したサービスとしてRadiotalkをリリースしました。そしてAirPodsやスマートスピーカーの国内販売が始まり、2018年には競合他社も複数登場しました。スマホに向かって話すことが少しずつ一般化してきます。このタイミングでRadiotalkをよりエンタメに寄せていきました。こういった経緯で、情報商材でもなく、中身のないかまってほしいだけの配信でもなく、情緒性の中でも特にエンタメに特化したポジションを取れてきた流れです。情緒性が強いほどリスナーの熱狂度も上がるので、リスナー参加型の配信を加速しようと、LIVE配信をリリースし、強化してきました。

そのため、今の人気配信者は主にライブ配信で収益化しているものの、「ライバー」とは少し違う。つまりストリーミング市場の中でも、既存の「ライブ配信」の事業者のパイを奪いに行ったということではなく、新しい配信者の経済圏を作りに行っているということになります。

音声市場の中での「Radiotalk」

── Radiotalkがリリースされたのは2017年ですが、あまり音声市場が注目されていない時期でした。なぜ音声のサービスを立ち上げようと思ったのでしょうか。

マーケットの観点と個人的な観点がありますが、マーケットの観点ではAirPodsの発売やスマートスピーカーの開発が始まったことから、スマホの次のデバイスは何かと考えました。画面がない場合、入力するインターフェースとして音声UIが楽だという実感があり、実際にメアリー・ミーカー氏をはじめとした海外の投資家からも評価されていることから立ち上げたのです。

個人的な観点では、もともと自分が大学の放送学科でラジオ制作の授業を取っていました。しかし人の話を音声で聴くことが好きなだけで、電波が好きというわけではない、しかも当時すでにネット上で聴いていたんですよね。テレビが誕生してもなお生き残った「ラジオ」の持つ、内輪盛り上がりのような少数高熱量なおもしろさは、聴取率で戦う広告ビジネスとは相性が合いにくい。制作者がマスを目指さなくてはならない構造に違和感を感じました。

結果的に、放送業界ではなくインターネットの企業(エキサイト)に入社しました。2012年~2013年では市場がなかったので、音声をやれるチャンスはありませんでした。エキサイトでユーザー投稿型のサービスを手がけその仕組み作りに強みがあったので、2016年に、音声で何ができるのかを考えた時に、ポッドキャストをもっと新しい形にしたいというところから入りました。

── Radiotalkがリリースされたのは他社のサービスも出始めたころでしょうか。

Voicyさんはパーソナリティがニュースを読み上げて話すサービスをローンチしていて、Spoonさんは韓国の展開で、日本にはありませんでしたね。一応パイオニアの意識は持ちますが、ローンチが一番最初であるかどうかはあまり重要ではありません。

── 既存のコンテンツを融合して新しいコンテンツを生みだされていますが、今後はどのようなものを作っていきたいですか?

まずは話すことのエンターテイナー、「トーカー」を生み出していきたいです。長期的には、音声に関するものは何でも。世の中ではDXの評価が高いですが、衰退産業やデジタル化できていないものに対して音声の力でアプローチするとしたら、まず1つめはコスト削減で効率的に作れるということ、2つめは新しいタッチポイントを作れるということだと思っています。そこに当てはまるものであれば、何でもやっていけるかなと考えています。

Radiotalkにおける他社との協業

── 2020年には学研ホールディングスと協業し、小学一年生を対象にドリル教材『おとらんど』をRadiotalk内で配信されていますね。

学研さんとの情報交換のきっかけは、1回目の緊急事態宣言で初めての外出自粛となった時、小学校1年生が学校に行けないというのが大きな課題だと思ったときです。

1年生は自習が難しいため親が一日中付き添う必要があり、動画を見せると見入って問題を解かず、本を読ませると手が止まってしまいます。音声なら手が止まらず目は紙と鉛筆に向かうことから、保護者の方の救済手段として良いのではないかということで、緊急事態宣言の中でできる精一杯のことだったと思います。

── 10代後半から20代前半向けのLIVE配信などとも異なる聞かれ方がされているのですね。

そうなんです。

LIVE配信の場合、配信者の年齢層が10代後半から20代前半に限られ、配信者の外見が重視されます。Radiotalkの場合は、もし黙っていたらコンテンツが止まってしまう難しさがあります。言語化できる自分の中身を求められるということです。ここからマスに出て、IP化をしていくのが理想的な形ではあります。数値で言うと、5分で30万円売れた人がいますが、その人の年齢は10代後半から20代前半の中には当てはまっていません。

── 意外ですね。顔出しの方が五感に訴えるので熱狂につながると思うのですが。

課金者の世代は30代・40代もいますが、飲み代に費やしていた給与をRadiotalkに使うように変えた学生・20代もいます。10年後、20年後の消費行動を見据えると、今の学生から20代前半の人たちはスマホネイティブで、音声のメッセージを聴くという体験自体が「お付き合いしている人との通話」くらいだったり、距離感の近い存在なので、Radiotalkがとても親密なものに見えています。これは動画配信プラットフォームとはまた別の熱量の生み出し方とも言えるでしょう。

── 2021年1月には、博報堂さんと日本初のインタラクティブ音声広告の配信を始められました。

核となるビジネスモデルはユーザー課金なので、トライアルの形で行っています。音声広告市場は2025年に、日本国内だと420億円超、世界だと1兆円規模だと見込まれています。YouTubeの動画広告のようにターゲティングしてコンテンツを出し分けし、ユーザーに最適な音声広告を出すというのを無料版でSpotifyが行っています。

将来的な音声広告市場を開拓するという意味で行っているのですが、なぜ可能性を感じているかというと、「対話型」の音声広告は、画面がなくなってからのデバイスの理想形に近いな、と。例えば車の運転中に音声広告を位置情報に基づいて流すといったことが、海外ではもう検証されています。車載の音声広告の配信により、48%の人が行動を変えたというデータがあるほどです。

「トーク(話すこと)」をエンタメに変えて作っていく経済圏

── 今後、Radiotalkでアプリを展開して、解決していきたい社会的な課題やエンタメ業界の課題はありますか?

「話す」という行為をエンタメにすることを目標としています。話す行為は人間だからできると思うのです。一人一人がどんな言葉でどんな体験を語るかは独自性が高く、これをエンタメにできれば毎日がエンタメの宝庫になるでしょう。

Radiotalk」という名前にも込めていますが、”talk”(トーク)つまり話すことがエンタメになったら毎日が楽しくなるというロジックで、トークをエンタメにしよう、と。そして、エンタメを続けるためには、エンターテイナーにお金が入る仕組みにしなければなりません。コアなリスナーとの間の内輪的な熱狂のおもしろさに対して、適切なビジネスモデルを用意し、話のエンターテイナー「トーカー」に還元される状態にしていきます。

私たちは小さな村のような経済圏がたくさん生まれていく仕組みを作ることで、トークをエンタメにしようと思っています。今は、特定の人が大きく売れるのではなく、少しでも売れる人がたくさんいるという状態です。現に、今のボリュームゾーンは月で1万円以上10万円未満の人になります。一方、ようやく、Radiotalkで月間100万円以上を売り上げて仕事を辞めた、という人も現れました。このような「食べていける」ほど稼げる人を連続的に育てるということを、ここ1年の目標としています。

── ここ1年の目標に到達するための課題はどのようなことでしょうか。

「話して食べていける人」がまだ少ないため、いろいろな手段で増やしていくことです。この責任者となるBizDevの積極採用を始めます。広告出稿という手段に限らず配信者を増やす「リクルーター」、または伸ばすポジション「プロデューサー」として、一緒に増やしていきたいと思っています。特に成果を出した方には、私の片腕となるCOOやCBDOとして、会社を圧倒的に大きくしながら、まずは上場まで一緒に達成したいです。

既存の市場をディスラプトしたい挑戦者を採用していく

── 今後、音声市場ではどのような方が活躍されるのでしょうか。

まだ、国内での成功パターンがないので、「挑戦できる人」です。戦略が変わる中でも適応でき、自分の役割を見つけられる開拓者のような人が向いていると思います。ラジオという一見衰退産業に見えるものを崩壊し、作り変えたい意欲のある人が良いですね。成功すれば、歴史に名を残すレベルの「大きな仕事」を現実的に夢見られる人とも言えます。

── どのような人を採用したいか、スキル部分とメンタル部分に分けて具体的に教えてください。

先ほど話したBizDev、すなわちトーカーの「リクルーター」や「プロデューサー」の場合、必要なのは経験値ではなく、圧倒的に「目標達成にコミットできる能力」です。KPIを分解し、目標に対して逆算して、やるべきことをプランニングできることが必要になります。

マインド面でいうと、先ほどの開拓者や挑戦者タイプであるということだと思います。

いずれにしても、RadiotalkのBizDevに経験値は不要で、toC未経験はもちろん、異業種でも良いくらい。目標達成に貪欲で、論理的思考力を持つ、大きな夢を持てる人ならどなたでも歓迎です。

Radiotalkにとって人材・エンタメとは

── 井上さんにとって一緒に働かれているメンバーとはどのような存在でしょうか。

今いるメンバーの多くは創業初期からいるメンバーで、0→1で火を巻き起こす必要があったので、何よりも馬力が必要でした。音声の価値がまだ認知を取れていなく、「薪を集めてきても点火の方法がわからない」というような、数百人のユーザーで止まっていた時代もありました。結果的に、チームを作って半年ほどで火を起こせたので、ネアンデルタール人のような存在と言えるかもしれません(笑)。

これから入社する人は、火を大きくするために、水が必要なのか、空気が必要なのか、無限の可能性から問いを立てて検証して、火を大きくしていくことができる人たちになります。かつまだ一桁社員なので、上場した10年後の状態から考えると、これから入る皆さんの努力がRadiotalk社の遺伝子を決めることになります。現代人の祖先、クロマニョン人的な存在となるわけです。彼らが壁画や彫刻を始めたりしたように、産業を作る上で「発明」のやりがいがあるタイミングです。

── 井上さんにとって「エンタメ」とはどのような存在でしょうか。

「エンタメは人を救うものである」と思っていますが、手法の移り変わりは慎重に感じています。インターネット普及前は、選ばれた人しかエンタメを作ることはできませんでした。

長らくはマスメディアが作ったものこそエンタメの代名詞となっていましたが、今では誰もがエンタメの発明者になれる時代に変わっています。また、国民の圧倒的大多数に評価されなくても、1000人でも真のファンがいればエンターテイナーの経済圏が成立する。だからこそ、マス認知のために動いていた大勢のリソースはこれから不要になり、その分、大量のエンターテイナーが生まれていく。大量にいるからこそ、自分にぴったりのピンポイントなエンターテイナーとマッチングする仕組みが重要になります。実現できれば1人1人が熱狂的なファンになり、「救う」だけでなく「アツくする」までが当たり前になるかもしれません。

人それぞれのエンタメがある、という状態をRadiotalkでは作ることができると思います。この準備として、まずはエンタメを「民主化されたもの」にしていきたいです。

 

(2021年4月16日、Radiotalk株式会社にて)