株式会社Spoon Radio Japan 川村絵美香氏が語る 新たな音声市場での働き方と求められる人材像

 

『エンタメ人☆彡』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。20代のエンタメ業界へ転職を考えている方へ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向まで伺っていく。12回は、現在市場規模が急拡大している音声配信アプリ業界を取り上げる。(編集部)

川村絵美香(かわむら・えみか)

Spoon Radio ジャパンカントリーマネージャー

早稲田大学社会科学部卒業。2014年ヤフー株式会社に新卒で入社。アプリ運営や新規事業の立ち上げに携わった後、留学のため渡韓。渡韓中の2018年にSpoon Radio Inc.に日本人第一号社員として入社。
Spoon日本サービスの立ち上げから携わり、現在はSpoon Radio ジャパンカントリーマネージャーを務める。

「ゆるく誰かと繋がる」優しい世界作りを目指して

まずは、Spoon Radioの事業内容について教えていただけますでしょうか。

声だけで、誰でも簡単に音声配信ができるアプリ「Spoon」を運営しています。声を通して活動していきたい方々に愛用されているプラットフォームで、全世界累計で3,000万ユーザーを突破しているサービスです。

──3,000万ユーザーも突破しているのですね。現在様々な音声メディアが存在していますが、その中でもSpoonの特徴があれば教えてください。

情報に触れたくて聴きに行く音声メディアもたくさんあると思いますが、「Spoon」はどちらかというと、「楽しみたい人」が集まる場で、声を通してコミュニケーションしたいという時に使われています。

また、芸能人やインフルエンサーなど、特別な方だけが配信できるプラットフォームではないので、スマートフォンさえあれば誰でも配信を開始できるという点でも異なっています。

──3,000万人いるユーザーは日本人だけではなく、海外の方もいらっしゃるのでしょうか。どの国の方が多いのでしょう。

もともとSpoon Radioは韓国で始まった企業なので、まずは韓国ですね。ほかにもアメリカ、サウジアラビアなど様々な国で利用されています。

──国ごとに聴かれるコンテンツや、使い方の違いはあるのでしょうか。

聴かれるコンテンツ自体は近しいものが多く、あまり大きな違いは見受けられませんが、

「顔を出さなくて良いメディアである」ことに対する捉え方は、日本と海外で大きく違っていますね。

日本のユーザーは、プライバシー意識が高いことから、基本的には一切顔を出したくないと考えていますが、海外のユーザーは「盛れている自分なら見せたい」といったニーズもあります。

そのため、海外のユーザーの場合、プロフィールの背景画像に自分の写真を使用している人がすごく多いのですが、日本では背景画像でも顔は出さない人が多いんですよね。

──ライブ配信アプリと比較すると音声だけなので、極端な話、すっぴんで寝ながらでも配信できるのが特徴のひとつですよね。

そうですね。「ながら視聴」といって、何か他のことをしながら聴けるというのが音声配信のメリットだと思うのですが、Spoonでいえば「ながら配信」というところまで進んでいます。

例えば料理をしながら配信したり、大掃除をしながら配信したり…と声さえ届けば良いため、配信する側でも視聴する側でも「ながら利用」が行われているのです。

その中には、「生活音」というカテゴリもあって、「生活している場の音」を配信する人もいます。PCのキーボードを叩く音、コーヒーを淹れる音、散歩している音…などです。

──実際に聴いてみると「タイピングだけでコンテンツになるんだ!」と感じて面白いですよね。

もともと、自宅よりもカフェに行った方が、周囲の音があるため勉強に集中できるといった心理もあると思うのですが、コロナ禍で在宅仕事が増えたり、家で一人でいる時間が増えたことで「他の人が生活している音を聴きたい」というニーズが増加していると感じています。

特に、Spoonは一人暮らしの若い人に愛用されています。実家に住んでいたとしたら、親が料理をする音を聴いたり、親と雑談をしたりといったことができるのに、一人暮らしではそれができません。

そのような部分もSpoonがカバーしているのかなと思います。ゆるく、誰かとつながる世界というのでしょうか。

自分たちでも気づけていない可能性を秘めた事業

──先ほどSpoonは韓国で始まった企業というお話がありましたが、創業の背景やきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

世の中には刺激的なコンテンツが溢れかえっていて、SNSでは炎上なども起こる中、本当に必要な情報ってなんだろうという疑問が生まれ、もっと人の優しさに触れたいという想いから「声」に注目し始まっています。

「声」って想像力を掻き立てられると思うんですよ。全てが見えてはいないからこそ「どんな人が話しているんだろう」と考えて、「人」に注目できるメディアです。

そこから音声というものが出てきて、それを配信するアプリを作ろうということになり、Spoonが生まれました。

──もともと「音声」という軸は変わっていないと思いますが、今に至るまで(アプリの)機能改善などはあったのでしょうか。

当初はこのようなライブ配信の形ではなく、録音型のみでした。

しかし、もう少しリアルタイムでコミュニケーションしていきたいという思いやニーズがその中で見えてきたため、ライブ配信を導入してみたところ、爆発的にユーザー数が増加していきました。

──プロモーションはどのようにしてきたのでしょうか。

当初、聴いてほしい話があった時にSpoonにアクセスすれば誰かが聴いてくれるといった「日常の中の癒しとしての役割」や、「悩みを話せる場所」といったコンセプトがあったのでそれを伝えていました。

しかし実際にサービスを立ち上げてみると、それよりも弾き語りや声劇などをはじめ、声を通してアクティブに様々な活動をしているユーザーが多かったので、癒しだけに限定するより声を使って表現しようと伝えた方がよいのではないかと感じました。

そして実際に配信しているSpoonerの声をそのまま広告に活用し、広告上でリスナーとしてSpoonのサービスを擬似体験できるようにしたところ、次第に広告効果が高まって来た様に思います。

──Spoonで人気があるのはどのようなジャンルでしょうか。

気軽にお話をする雑談配信や「歌ってみた」の弾き語り配信、ASMR(聴くと気持ち良くなる音)、寝落ち配信、イケボ(イケメンボイス=聴いていて心地よい声)・カワボ(かわいらしい声)を持っている人たちのシチュエーションボイスなどが人気です。

そのような活動をしている人同士がSpoonの中で出会って、一緒に声劇やボイスドラマを制作するといった事例もあります。

ユーザー同士で一緒にコンテンツを作成するということです。

当初は予定していなかった使われ方がユーザー発信で行われるようになったので、まだまだ私たちも気づけていない可能性もあるのではないかと思っています。

拡大してゆく音声メディア市場の中で、Spoonができること

──今後の音声メディア市場の中での展望や課題があれば教えてください。

動画と比較すると音声はこれから伸びてゆく市場なので、どれがおもしろいコンテンツなのかがわかるまでが難しいと感じています。例えば動画なら、サムネイルに注目して冒頭部分を少し見ればおもしろいかどうか判断できるでしょう。

しかし音声の場合は視聴者に興味を惹かせ、実際に聞いてもらい、更にそれがおもしろいかどうかを判断してもらうまでには動画と比較すると結構時間がかかります。

そのためもっと視聴者のニーズに合ったコンテンツをSpoonが届けることができれば、サービスもさらに伸びていき、市場も広がっていくのではないかと思いますね。

──日本の音声メディア市場の中での展望や課題、ビジョンがあれば教えてください。

日本に限らずSpoon全体としては、音声市場でYouTubeのようなプラットフォームになれればと思っています。その上で、日本市場の担当として考えている方向性は2つあります。

1つめはユーザーへの支援。2つめはアプリ機能の充実を図るということなんですが、

ユーザーへの支援にも2つあります。

1つめは音声を軸に活躍する人たちを増やしていきたいです。そのため、その人たちの活動機会や場所をSpoon内外でどんどん提供していこうと考えています。

2つめは声を通してspoonで配信することが、もっと収入につながればいいなと。「Spooner」という職業を作りたいと思っています。

YouTuberのようにSpoonで活躍する人をSpoonerと呼んでいますが、それが職業になればいいなと思います。アプリ機能の充実を図ることについては、Spoonerが収入を確保するパターンを増やしていくような機能を追加していきたいと考えています。

今はファンからのギフティングがメインになっていますが、現状だとファンの負担が大きすぎるため、例えば音声広告機能を導入するなど様々な収入のパターンを検討しています。

──今の小学生が「YouTuberになりたい」と夢を語るように「Spoonerになりたい」と語るようになってほしいということでしょうか。

そうですね。Spoon出身の声優や、Spoon出身のラジオDJなど、声で活躍する人をSpoon界隈から生んでいきたいというのがありますし、配信すること自体を職業にできたらいいなと思っています。

新卒で大手IT企業に入社後、韓国へ留学しSpoonに入社

──川村さんご自身のお話も伺わせてください。学生時代はどのような過ごし方をされていたのでしょうか。

大学生の時にスマホを使うようになり、インターネットにすぐに繋げられる世界にワクワクしていました。こんなに可能性を感じるんだと思い、その時からインターネットに関わる仕事をしたいと思っていました。

ベンチャー企業でインターンをしてみたり、海外旅行をしたり、やりたいことを一つでも多くできるように、大学生という時間を過ごしてきたように思います。

新卒ではヤフー株式会社に入社したのですが、ITに興味があった中で、たくさんの人に影響を与えてみたいと感じたのが理由です。

大企業に入社することで自分の行なった仕事がどのようなインパクトを生んでいるか、体験してみたかったのです。

最初はカメラアプリの運営チームに配属され、そこで運用からマーケティングなどそのアプリに関わること全てを担当させていただきました。

──大変だったエピソードがあれば教えてください。

入社前と入社後でギャップを感じました。

IT業界は勝手に何かキラキラした世界だと思っていたのですが、大きな企業が何かを起こすためにはたくさんのステップが必要で、その間にはすごく泥臭い作業も必要だと知りました。

大きな企業で何かをするというのは本当に大変なことだなと。

──その後、転職活動を開始されたのでしょうか。

いいえ。ずっとしたかった留学をするために、一度ヤフー株式会社を退職しました。大学生の時に短期的な留学は経験しましたが、長期的な留学は経験がなかったので、韓国に1年間留学することにしたのです。

留学中にSpoonの代表である崔 赫宰さんに声をかけていただき、日本サービスの立ち上げを手伝うことになって、そのまま入社して現在に至ります。

──崔 赫宰代表とはどのような出会いだったのでしょうか。

留学中、学生で仕事がなかったので、貯金が減っていくのが怖くて。

このままで1年間やっていけるのだろうかと思った時、自分がIT業界で働いていた経験を活かし、韓国のIT企業でアルバイトをしてみたいと考えました。

履歴書をさまざまな企業に送付してみたりもしたんですが、代表が応募先でもないのに偶然その履歴書を見つけ、連絡が来ました。

また、履歴書以外にも偶然が重なっていました。実は私自身、韓国版Spoonのユーザーだったんです。「日本人が韓国語を練習する」という内容で配信もしていました。

その配信からファンの方が付いてくれて、Spoonを通じて新しい繋がりを得ることもでき、Spoonを楽しく使うことができていたのです。そのためこれは絶対に日本でも流行ると感じていました。

そんな折、代表に「日本市場の開拓を一緒にやらないか」と誘われ、自分が可能性を感じているサービスから声をかけてもらえるのは大きなチャンスだと思ったのです。自分が一緒にやって成功させたいとも思ったので、入社を決めました。

──韓国の企業で働くにあたって、日本企業とのギャップはありましたか?

仕事や意思決定の速度が尋常ではないスピードだったことですね。例えば物事を決定する場合にもっと慎重に検討しなくて大丈夫なのかと思うくらい早くて、「まずやってみよう」と。

失敗したらしたでなぜ失敗したのか分析して、同じ失敗を繰り返さなければよいという考え方なのですが、「まずやる」というスピードに最初は自分がついていくのが必死でした。

また、当時は韓国語を勉強中だったため、意思疎通がうまくいかないことも大変でしたね。

──厳しい環境だったと思いますが、どのように乗り越えて来られたのでしょうか。

とても負けず嫌いなので、正直それ1本で乗り切ったのではないかと思います。

例えば自分がいろいろ考えていても言語力のせいで少ししか伝えられないため、考えが薄い人と勘違いされたとします。

それってすごく悔しくて、例えば「自分の表現力不足だ」と原因がわかると、その原因を1つ1つ潰していきました。悔しさや負けず嫌いは自分の原動力になっていると感じます。

──そのあとのお話を伺います。実際に日本市場の開拓に着手されてからはいかがでしたか。

最初は2人での立ち上げだったのですが、当時は日本市場に関する全ての作業を行う必要があったため、私がマーケティング、CS、翻訳など全て担当していました。今は採用も進み、15人程度で分業ができています。

──今、仕事やプロモーションをする上で意識されているのはどのようなことでしょうか。

常にユーザーの目線を忘れないということです。長く同じサービスを見ていると、ユーザーの小さな変化に気づきにくくなる時があります。それを敏感にキャッチできるかできないかで大きく結果は変わります。

昔、運営としてある企画を行ったところ、期待と逆の展開をしてしまい、ユーザーを悲しませてしまったことがあります。ユーザー目線を忘れて会社の利益を追求しようとしたことが原因だとわかりました。ユーザーが今何を考え、なぜ配信しているのかを感じ取り、常に緊張感を持ってユーザー目線を忘れない判断をしていきたいな、と考えています。

「世界のSpoon」へ進化していくために必要な人材とは

──今後、求められる人材像について教えてください。

音声コンテンツはまだ勝ちパターンが見えていない市場です。今市場が盛り上がっている中で、成功体験という名の勝ちパターンを自分たちで作っていく段階なので、正解がない中で仕事をするのを楽しめる人が必要だと感じています。

また何かしら音声というものに対して魅力を感じている人でないと難しいと思っているので、音声コンテンツに可能性を感じ、熱狂できる人が良いでしょう。Spoonという事業をどのように開発して広げていけばよいのかを考えられる人も必要です。

そして、音声コンテンツ業界の経験者はほとんどいないはずなので、基本的には未経験者の採用が中心になります。近しい経験といえばエンタメ業界・IT業界・動画配信の経験者などがそれに当たりますが、実際にそのような経験を持つ人が採用することが多いです。

また、私個人の視点でいえば、「この人のこの部分には絶対にかなわない」というのを持っている人を採用したいです。それぞれが自分の武器を持っているようなイメージで、尊敬から信頼が生まれると思っています。音声市場という成長し続ける市場においては、信頼関係があればこそ、お互いが最高速度で駆け抜けられるのではないかと感じます。

──最後に、川村さんにとっての「エンタメ」とは何でしょうか。

その人の人生に、何かしらの鮮やかさを与えるものではないでしょうか。何か強烈に心を掴まれたり、揺さぶられたりといった経験、またじっくりと染みわたるような感動など、タイプは異なりますが、人の心にタッチして揺さぶるのがエンタメかなと思います。

生きる糧と言ったら大げさになるかもしれませんが、人によっては人生が変わることもあるでしょう。Spoonの場合も「Spoonのおかげで人生が変わりました」とユーザーの方からお手紙をいただいたりもします。

そのような面からも、エンタメとは人の人生に何かしらの鮮やかさを与えるものなのではないかと感じます。

〔取材は2021年3月18日、株式会社Spoon Radio Japanにて〕