サムライト株式会社CEO・池戸聡氏が語る メディア業界における独自の「舵取り」

 

『エンタメ人☆彡』がお届けする、エンタメ業界のトッププロデューサー/経営者へのインタビュー連載。エンタメ業界へ転職を考えている20代の方たちへ向けて、若手時代の苦労話から現在の業界動向までを探っていく。第17回は、コンテンツマーケティング&メディア業界を取り上げる。(編集部)

池戸聡(いけど・さとる)

サムライト株式会社代表取締役CEO 

2006年、株式会社セプテーニに入社。デジタルマーケティングの第一線で活躍した後、同社を退職して1年半の世界一周の旅に出る。帰国後、2014年3月に創業メンバーとしてサムライトに参画し、現在は代表取締役CEOを務める。

エンターテインメントを盛り上げることは、「2.5ジゲン!!」が社会に対して果たすべき役割・使命の一つ

── はじめに、サムライト株式会社における事業内容とビジョンについて教えてください。

「コンテンツを信じる。メディアを進める。人を彩る。」をミッションに掲げ、コンテンツマーケティング支援事業とメディア事業を主に展開しています。

コンテンツマーケティング支援に関しては、創業時から掲げている「広告を情報に変える」というコンセプトのもと、邪魔もの扱いされる広告を、生活者にとって価値ある情報やおもしろいコンテンツに変換することによって、クライアント企業とそのターゲットとなる人々との間に良好な関係を生み出し、マーケティング成果、ひいてはビジネスの成長につなげていく支援を行なっています。

そのなかで培ったコンテンツ制作やメディア運営のノウハウを生かしてメディア事業も展開しており、新しいメディアの形を作ることにチャレンジしているところです。

──漫画やアニメ、ゲームなどを原作・原案とした「2.5次元」の舞台作品に特化した、自社メディア「2.5ジゲン!!」も運営されていますね。

「2.5ジゲン!!」については、まず「自社メディアの事業拡大をしていこう」というところからスタートしています。2.5次元というテーマを選んだきっかけは、もともとアニメも好きだったのに加え、たまたま「2.5次元」の世界に僕が触れる機会があって。芸能系の事務所を運営している知人が「2.5次元」に特化した俳優さんを育てているという縁もありました。

素敵な俳優さん達がいて、ファンの方々がいる。熱量がとても高く、市場も伸びているのに、当時はそこに特化したメディアがなかったんです。

一方、メディア事業という観点では、以前はより多くの人にリーチできる、いわゆるマスメディアがより価値のあるメディアと定義されてきましたが、これからのインターネットの発展形態を考えたとき、分散化された興味・趣向とそれぞれに特化したメディア群がエコシステムとして成立していくのでは、という仮説を持っていました。

そこで、ニッチでありながら大きな熱狂を生み出している2.5次元という世界で、従来の価値観では生まれなかったメディアとしての新しい形を模索したり、新しいマネタイズモデルの可能性にチャレンジしたいと考えました。

── 今後の構想・展望について教えてください。

広告を中心とする今までの収益モデルだけでは、メディアビジネスは今後厳しくなることは間違いなさそうです。そのため、従来のコンテンツに留まらず、ユーザーが熱狂する体験をメディアが提供する、そして、熱量をビジネスに昇華する、つまりその熱量を収益化することが、メディアビジネスの選択肢の1つになるのではないかと、模索している最中です。

具体的にいうと、特定の俳優さんに出演いただくライブ配信や誕生日パーティーのようなオンラインイベントを開催してファンの皆さんに参加していただくという、従来のディナーショーのオンライン版のようなモデルが「withコロナ時代」においてはフィットしているのではと考えています。

「オンラインイベントで人の心を動かすことができるのか」という点については当初不安もありましたが、蓋を開けてみると、実際とても盛り上がっていて、ファンの皆さんの心が動く瞬間を何度も目の当たりにしてきました。もちろん簡単ではないですが、インタラクティブな設計と適切なプロデュースさえなされれば、リアルに劣らない熱量を生み出せることを、ここ半年ほど様々なイベントを企画運営してきた中で証明できたと思っています。

参考:
【レポート】TFGコラボ企画、佐藤信長&坂垣怜次のライブ配信イベント開催の様子をお届け

瀬戸啓太さん、ファンからのメッセージに「目頭が熱くなるほど嬉しかった」 配信イベント後を直撃

コロナで厳しい状況に直面しているエンターテインメントと舞台の市場を盛り上げていくことは、2.5次元を扱うメディアとして果たすべき役割・使命ですし、これからも新しいことに積極的に挑戦して貢献していきたいと考えています。

無我夢中で働き、自由に生きた20代。ビジネスを立ち上げる意欲、ブレることなく

── 学生の頃のお話についてもお聞かせくださいますか。

父の教えの影響もあって、学生時代は、「いろんな人と出会い、いろんな人と遊び、同じ時間を過ごすことが価値である」と考えていて。とにかく、学友たちと遊んでいましたね(笑)。ビジネスに直接つながるような経験はしていませんでしたが、盟友と呼べるような仲間ができたことが財産です。

── 当時、どんな仕事をしようとお考えでしたか?

父が経営者だったので、自分も経営者になることか宿命だと勝手に思っていました。いずれ、ビジネスを立ち上げることになると漠然と考えていましたね。

そういう軸だけは持っていて、そのなかで成長産業に身を置くことだけを決めて就職活動をしていました。結果的にそれがインターネット産業だった、ということですね。

── 20代の過ごし方について教えてくださいますか?

1社目はインターネット広告を取り扱うセプテーニという広告代理店に就職して、がむしゃらに仕事をしていました。人や環境に恵まれていたのもあると思うのですが、仕事が楽しかったんです。夢中で目の前のことに取り組み、目標・キャリアアップを目指して6年間、突っ走ってきました。

3年で会社をやめてビジネスを立ち上げると決めていたんですが、かわいがっていただいたこともあり、その会社や会社の方々に愛着が湧いて…。

── では、どうして会社をやめようと思われたのですか?

当時、1年間くらいのあいだに、大学の後輩や大好きだった格闘家・サッカー選手が立て続けに亡くなったんです。

時間が有限であって、命が永遠でないという当たり前のことに直面したことで、今しかできないことに時間を使いたいという気持ちがふつふつと込み上げてきました。

そこで、28才のときに、思い切って会社をやめてバックパッカーになろうと。いろんなものを見たい、いろんな文化に触れたいという思いのまま、世界を放浪する旅に出ました。

── 休職ではなく離職された理由は?

ビジネスを立ち上げるという未来がブレることはなかったので、会社をやめることにリスクは感じていませんでした。当時のセプテーニの代表にも「6ヶ月休んでいいぞ」といわれたんですが、制限や期間を決めてしまうと、自分の可能性を狭めてしまう気がして…。

── 世界一周をして印象的だったことを教えてください。

当たり前のことなんですけど、自分の知らないものやことで世界は溢れていて、人は多様でそれぞれ違いがあることを肌で感じることができました。価値観がガラリと変わったというより、自分のなかにあったものを、実体験のなかで体感していく作業だったように思います。

旅をしていて感じたことや根本にある価値観や思想みたいなものは、採用のシーンや組織を作っていく場面にもにじみ出ていると思います。

会社のゴール、つまりビジョンに共感してもらうことが一番大事

── 御社では個性を持った方々が活躍されている印象があります。人材の個性を活かそうとする中で、苦労されたことなどありましたか。

創業期には多様性という言葉だけが一人歩きしていて、単に「いろんな人がいる組織」となって、統制が思うようにとれていない時期もあったんです。

それぞれの意思、我々は「Will」と呼んでいますが、個性を尊重するあまり、みんなバラバラの方向を見てしまっていて。まとまりがない、業務委託やフリーランスの集団のような印象でした。

そんな経緯もあり、現在ではサムライトとして目指すゴールや基本的な価値観がベースのところで共感・共有できていることを大事にしています。その上で、そこから上にあるものが個性であり、どんな個性でも自由、という考え方で組織運営をしています。

── 共通項となる部分をどう共有しているんですか?

やはり、会社のゴール、つまりビジョンに共感してもらうことが一番大事だと思います。

よく、漫画『ONE PIECE』を引き合いに出すのですが、ゴーイングメリー号の船長であるルフィが、ひとつなぎの大秘宝を手にいれるというゴールを定めていますよね。船に集まった仲間たちはその想いに共感し、力を合わせてそのゴールに向かうのですが、メンバーそれぞれが持つ目標や夢の実現も同時に目指して一緒に旅をしていきます。

船や船長の大きなゴールがあって、世界一の剣豪、料理長、医者という具合に、ゴールの実現に必要なメンバーや役割が明確になっていく。会社もそういうものなのだろうなと、自分では理解しています。

── 社内で共有されるべき価値観として、例えばどんなことが挙げられますか?

サムライトには、「現状維持は衰退である」という象徴的な価値観があります。成長してなんぼ、ということです。同時に、従業員も進化し続けて欲しい、できることが増えていけば、それだけ市場価値が上がって、結果的に自身の「Will」につながるはずと。

それが共有できていないと、「成長してなくてもよくない?」ってなりますよね。創業時はそうしたハレーションが起きていたわけです。従業員が同じ方向を見続けるためには、重要な価値観をきちんと明文化して共有していくことが大切だと思っています。

── 採用される際に大切にされている点、重視される点について教えてください。

採用の際には、カルチャーフィットとかヒューマンスキル、パーソナリティーなどは他社さんよりもしっかり見ているかもしれないですね。

優秀な人材に出会うと、多少のことには目をつむっても獲得しにいこうとするシーンって現実にはありますよね。でも入社後に「この人はイーストブルーに行きたかったのに、この船はグランドラインに向かっている」みたいな状態だったら、それはお互いにとって不幸なこと。

なので、その人が目指す将来を徹底的に聞き出して検証して、優秀な人でも合わないときは採用しないようにしています。

── それだけしっかり人材を見ていくのは、大変なことですね。

確かに、一人ひとりに向き合うと時間がかかるし大変ではあります。でもその人をちゃんと見て、その人の将来を一緒に考え、お互いハッピーになれそうだったらラブコールを出すというのが我々の基本的なスタンスです。

人材は「家族」でなく「クルー」

── 御社にとっての人材とは、どのような存在でしょうか。

よく「社員は家族」と言われたりしますが、「クルー」という表現の方が近いかなと個人的には思っていますね。同じ船に乗り合わせている限りにおいての仲間というか。

いずれ、ほかに乗りたいと思う船に出会ったらそちらに移ることもOKですし、会社としてはそれを応援する。従業員と会社は、そんな関係性なんじゃないかなと最近は解釈しています。

── また、御社にはユニークな人事制度が多くありますね。まずは、そのひとつである「奄美採用」(※)について教えてください。

※最先端の働き方へのチャレンジ、ならびにIターン・Uターンの移住者や奄美大島在住者の雇用機会創出をはじめとする地域活性化への貢献強化ならびに東京本社と連携した企業のマーケティング支援等を目的に、2020年1月開設。

奄美大島支社設立の経緯(プレスリリース)は以下

https://somewrite.com/news/pr/amami_open/

奄美大島支社を設立した最初のきっかけは、ひとりの社員が南の島に移住したいと言い出したことでした。(奄美大島支社設立にいたる個人のWILLに対する企業のスタンスについて詳しくはこちら→https://journal.somewrite.com/shacho1/)『ONE PIECE』では、ゴールに向かう過程で仲間の「Will」のためにちょっと寄り道をしたりしますよね。その寄り道が僕らにとっては奄美大島だと思っていて。

本来のゴールからはそれたところにある寄り道のように見えて、実はそれがゴールに到達するための大事な点になっていて、最終的に回収されていくという感じですね。

今では、奄美支社をハブとして人が集まる状況ができてきていて、奄美出身の方を現地採用したり、奄美大島に移住したい人がサムライトに入社することもあります。最初からここまでの広がりを想定できていたわけではないですが、今や奄美支社は、我々が大事にしている「多様性」や「新しい働き方」を体現する象徴的な存在になっています。

── 「変人採用」についても教えていただけますか?

我々がいう「変人」とは、固定観念や既存のルールに縛られずに新しいものを作っていける、イノベーションを起こせる人材のことをいいます。実際、これまでも、よい意味で空気を読めない人は、仕事のパフォーマンスが高い傾向がありました。

そんな「変人」社員には、常に自分で考え、判断できるという共通点があります。ときに周囲と衝突することもある反面、組織や周囲の環境には依存しない原動力を持ち合わせていて、難しい局面でも自力で突破する強さがあります。

同時に、そんな「変人」たちが働きたいと思えるような環境を整備することも大切だと思っています。

── では、最後にお聞きします。池戸さんにとってエンタメとは何でしょうか。

「エネルギー源」でしょうか。ユーザーさんの熱狂ぶりや涙を見ていると、生きるための活力を得る手段であったり、元気の源であったりするのだなと感じていますね。

新しいメディアのかたちを模索し、ビジネスモデルとして成立させることに挑戦しながら、俳優さんたちやユーザーさんたちを彩っていきたいなと思っています。 

〔取材は2021年2月19日、サムライト株式会社にて〕